スポーツロボット

スポーツやボードゲームなどの競技ゲームは,人工知能やロボット技術の例題として有効性が高く,これまでにも数多くの研究が行われてきた。本研究課題では,エアホッケーなどに代表される対人型物理的インタラクションゲームを対象とする。これには次のような特徴がある。
  1. 人を相手にするために,単純な動作だけでなく戦略的な駆け引き,相手の動静の推定など,高度な知能技術の課題を含むこと。
  2. 物理的なインタラクションを含むので,感覚や運動を含むシステム統合での知能技術の検証ができること。
  3. 個人ゲームは,集団ゲームと比較して協調問題やコミュニケーションの問題の占める割合が少なく,問題を単純化して個人の内部の知能技術に集中できること。
本研究室では,これまでに対人型物理的インタラクションゲームの一例として高速ビジョンとマニピュレータを用いた高速エアホッケーロボットを中心に研究を行ってきた。マニピュレータの能力は人間の腕と比較して劣っているが,1秒間に500Hz以上で認識する高速ビジョンを導入して認識能力を向上させることで,人間と遜色ない対戦能力を実現できる。また,対戦相手の隙を狙って打撃するための最適打撃動作,数手先の状況まで予測して最適化する動作戦略[といった戦略的な要素の研究を行っている。エアホッケーゲームは単純な打ち合いだけでなく,対戦相手の状態に合わせて,弱点をつく,フェイントをかけるなどの,物理的かつ心理的な要素を含む高度なゲームであり,リアルタイムでの予測と意志決定の問題解決が性能向上のカギとなる。本研究では,ロボット工学,制御理論,最適化理論,深層学習,強化学習,機械学習の技術を応用し,人間を超える新たな対戦ロボットシステムの設計理論を構築することを目的とする。

システム開発

動作戦略

高速ロボット制御

エアホッケーロボット

人と対戦を行うようなロボットシステムにおいても高速ビジョンは効力を発揮する。その一例として,エアホッケーロボットシステムが開発されている。ロボットアーム自体の運動速度は人間よりも劣っているが,高速ビジョンにより認識性能を人間よりもはるかに高くすることで,互角以上に対戦することが可能となっている。ロボットの動作は高速ビジョンの情報を元にリアルタイムで最適制御されており,その能力を最大限に活用されている。 このようなエンターテイメントロボットでは,単に人間の動作に反射的に動くだけでなく,戦略に基づくインテリジェンスが求められる。本システムでは,対戦相手の動作も認識し,先の展開を予測することで最適な打撃位置,強さ,方向を選択している。
  1. A. Namiki and S. Matsushita, Hierarchical processing architecture for an air-hockey robot system, IEEE Int. Conf. Robotics and Automation, pp.1187-1192, 2013
  2. Kazuki Igeta and Akio Namiki, Algorithm for Optimizing Attack Motions for Air-Hockey Robot by Two-step Look Ahead Prediction, 2016 IEEE/SICE International Symposium on System Integration, pp.465 - 470, 2016
  3. Masaya Kaneko and Akio Namiki, Real-time Player’s Posture Measurement System for Air-Hockey Robot, 2018 IEEE Conference on Robotics and Biomimetics, pp.1353-1358, 2018

高速ビジョンと高速手首関節を備えたエアホッケーロボットの開発

我々の研究グループでは、人間を超える500Hzの視覚認識が可能な高速視覚を持つエアホッケーロボットを開発した。このロボットは高速視覚を利用することで反応速度を上げ、パフォーマンスを向上させているが、ハンドスピードがまだ十分でないため、人間と対戦するにはスピードが低い。そこで本研究では,エアホッケーロボットにダイレクトドライブモータを用いた高速手首回転機構を導入し,手首のスナップ動作による打球速度の向上を図った.さらに,高速視覚フィードバックを利用した打撃動作アルゴリズムを開発した.提案システムの有効性を実験的に検証した.その結果,提案システムは運動性能の向上を示した.
  1. Koichiro Tadokoro, Shotaro Fukuda, and Akio Namiki, Development of Air-Hockey Robot with High-Speed Vision and High-Speed Wrist, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.34, No.5, pp.956--964, 2022. web
  2. 田所恒一郎, 並木 明夫, エアホッケーロボットにおけるスナップを利かせるための手首関節の開発, 第22回計測自動制御学会SI部門講演会(SI2021),2D5-05,12/14-16.

エアホッケーロボットにおける人の刺激系列学習を利用した動作戦略

スポーツロボットでは,通常のロボット以上の高速な運動能力と認識能力が必要とされるだけでなく,ゲーム性を高めるために,対戦相手の物理的・心理的状態に対応した動作戦略が必要とされる.これに関して,人間同士の対戦型スポーツにおいて,選手は身体言語的手掛かり及び文脈的手掛かりを用いて対戦相手の動作を予測し自身の動作を決定していることが知られている.ここで,身体言語的手掛かりとは攻撃の方向や種類によって変化する相手の身体の動きの情報であり,文脈的手掛かりとはこれまでの試合展開などの情報である.これらの手掛かりに基づきロボットの制御戦略を行うことで,より高度なゲーム展開が期待できる.そこで本論文では,エアホッケーロボットを対象に,特に文脈的手掛かりを動作戦略に適用する.図に示すように,対戦中にロボットの攻撃系列を相手に意図的に学習させ,途中でそれまでの系列とは異なる攻撃を与えて相手の意表を突くことを目的とする.人間の反応をモデル化しロボットの動作戦略に組み込むことで,対戦相手の意表を突く攻撃を実現した.
  1. Shotaro Fukuda, Koichiro Tadokoro, Akio Namiki, Motion Strategy Using Opponent Player's Serial Learning for Air-Hockey Robots, 2021 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robot and Systems (IROS), 2021
  2. 福田 翔太郎,田所 恒一郎,並木 明夫, エアホッケーロボットにおける人の刺激系列学習を利用した動作戦略, 第26回ロボティクスシンポジア講演論文集
  3. 福田 翔太郎,田所 恒一郎,並木 明夫, エアホッケーロボットにおける人の刺激系列学習を利用した戦略設計, SI2020(第21回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会), 2D1-12, 2020, 優秀講演賞

エアホッケーロボットシステムにおけるマスタ・スレーブ制御と視覚提示の適用

本研究では,エアホッケーをマスタ・スレーブにより動作させることを目的とする. 本研究グループでは,これまでに開発してきた Augumented Reality (AR) による補助と,操作制御と自律制御とを統合した半自律アシスト制御の2つの手法をエアホッケーロボットに適用して,マスタ・スレーブ制御による操作システムを開発した.アシスト制御として,操作者の手のカルマンフィル タによる予測と,AR による視覚提示を適用し,操作性を向上させた.
  1. 王ゲツ, 福田翔太郎, 松坂彩香, 劉楊, 並木明夫, エアホッケーロボットシステムにおけるマスタ・スレーブ制御と視覚提示の適用, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2020(ROBOMECH2020), 1P1-H11, 2020

エアホッケーロボットにおける対戦者の運動学的制約を考慮した攻撃評価

  1. 金子昌也, 福田翔太郎, 並木明夫, エアホッケーロボットにおける対戦者の運動学的制約を考慮した攻撃評価, 第25回ロボティクスシンポジア講演論文集, pp.220-221, 2020
  2. Masaya Kaneko and Akio Namiki, Real-time Player’s Posture Measurement System for Air-Hockey Robot, 2018 IEEE Conference on Robotics and Biomimetics, pp.1353-1358, 2018
  3. 金子昌也、並木明夫, エアホッケーロボットのための対戦プレイヤーの実時間姿勢計測システム, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会, 2P2-D14, 2018

2段階先読みを用いたエアホッケーロボットにおける最適攻撃アルゴリズム

  1. Kazuki Igeta and Akio Namiki, Algorithm for Optimizing Attack Motions for Air-Hockey Robot by Two-step Look Ahead Prediction, 2016 IEEE/SICE International Symposium on System Integration, pp.465--470.
  2. 井桁和輝, 並木明夫, 2段階先読みを用いたエアホッケーロボットにおける最適攻撃アルゴリズム, 第21回ロボティクスシンポジア講演論文集, pp.356-361, 2016

エアホッケーロボットシステムにおける非線形モデル予測制御を用いた最適運動計画

  1. Akio Namiki and Takahiro Ozeki, Vision-Based Optimal Control for an Air-Hockey Robot System, The 7th Annual IEEE Int. Conf. on CYBER Technology in Automation, Control, and Intelligent Systems, pp.1176-1181
  2. 大関隆寛, 並木明夫, エアホッケーロボットシステムにおける非線形モデル予測制御を用いた最適運動計画, 第18回ロボティクスシンポジア講演論文集, pp.580-585, 2013

チャンバラロボット

人間の打撃を予測して,瞬時に最適な防御手法を選択するロボット.
  1. Akio Namiki and Fumiyasu Takahashi, Motion Generation for a Sword-Fighting Robot Based on Quick Detection of Opposite Player's Initial Motions, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol.27, No.5, pp.543-551, 2015