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1. 研究背景
ダイヤモンドは、広いバンドギャップ、高い熱伝導率、優れた絶縁耐性、化学的安定性を有しており、次世代の半導体材料として大きな期待を集めています。高出力デバイスや高周波デバイス、さらには宇宙空間や原子力関連施設のような過酷環境下で動作するデバイスへの応用も期待されています。
一方で、ダイヤモンドを半導体材料として利用するためには、結晶を薄いウエハ状に切り出す必要があります。しかし、ダイヤモンドは極めて硬く、従来のワイヤーソーなどの機械的加工では、加工速度や材料損失の点で大きな課題があります。
そこで本研究では、超短パルスレーザを用いた「レーザスライシング」に着目しています。レーザ光をダイヤモンド内部に集光すると、焦点付近でのみ局所的な変質部を形成できます。この変質部とその周囲に発生する微小な亀裂を利用することで、ダイヤモンドを任意の深さで分離することを目指しています。
特に本研究では、半導体ウエハとして重要な{100}面に沿ったスライスを実現するため、レーザ照射条件や変質部の配置、亀裂の進展方向を制御する技術の開発に取り組んでいます。
2. 研究方法
本研究では、ピコ秒パルスレーザを単結晶ダイヤモンド内部に集光し、試料内部に微細な変質部を作製します。変質部を一定間隔で二次元的に配置することで、変質部同士を亀裂で結合させ、面状の変質層を形成します。その後、外力を加えることで、この変質層を起点としてダイヤモンドをスライスします。
また、ダイヤモンド内部で発生する亀裂は、結晶面の影響を強く受けます。そのため、レーザ照射の順序や変質部間隔を工夫し、亀裂が劈開面へ逸れるのではなく、目的とする{100}面に沿って進展する条件を調べています。
さらに、HPHTダイヤモンドとCVDダイヤモンドの比較、レーザ波長の違いによる内部変質形状の評価、ラマン分光による加工面の残留応力評価、蛍光液を用いた変質層内亀裂の可視化などを行い、レーザスライシング現象の理解と加工プロセスの高度化を進めています。
3. 今後の展望
今後は、ダイヤモンド内部で生じる変質部形成と亀裂進展のメカニズムをさらに明らかにし、より高精度かつ低損失なスライシング技術の確立を目指します。特に、産業応用上重要な大面積CVDダイヤモンドに対して、安定して{100}面スライスを行うための加工条件の最適化を進めます。
また、蛍光観察などを用いて変質層内の亀裂進展状態を可視化することで、スライス前に加工の良否を評価し、必要な領域にのみ追加加工を行うような高効率プロセスの構築を目指します。
本研究により、ダイヤモンド半導体の実用化に必要不可欠なウエハ作製技術を確立し、次世代パワーデバイスや高耐環境デバイスの発展に貢献することを目指しています。